会社設立時の「株価」とは、設立時に発行する株式1株あたりの払込金額のことです。
1株の金額について、会社法に下限や上限を定めた規定はありません。
払い込む総額と発行する株式の数が決まれば、1株の金額も決まります。
この記事で取り上げるのは、会社設立時における株価の決め方と、その計算例です。
設立後の増資や、株式を贈与・相続するときの評価の考え方もあわせて整理します。
1. 株価とは?
会社設立の場面でいう「株価」は、上場株式の市場価格とは別のものです。
設立時の株価は、発起人が株式と引き換えに払い込む1株あたりの金額を指します。
定款に定めがない場合、株式の数と払い込む金額は発起人全員の同意で決めます。
払い込まれた金額は、原則として全額を資本金に計上するのが会社法のルールです。
ただし、払込額の2分の1までは資本金にせず、資本準備金として計上できます。
「株価」という言葉は、場面によって次のように意味が変わります。
| 場面 | 株価が指すもの | 決め方 |
|---|---|---|
| 会社設立時 | 1株あたりの払込金額 | 発起人が決める(全員の同意) |
| 設立後の増資 | 新たに発行する株式の払込金額 | 非公開会社は原則として株主総会の特別決議 |
| 株式の贈与・相続 | 税務上の評価額 | 国税庁の定める評価方法で計算 |
設立時に決めた金額と税務上の評価額は、別のルールで決まる点に注意が必要です。
(出典:e-Gov法令検索「会社法」第32条・第445条)
2. 株価の決定要因
設立時の1株の金額は、法律で決まった金額があるわけではありません。
実務では、資本金の額や出資者の構成など、次の4つの要素を踏まえて決めます。
2-1. 資本金と株式の関係
1株の金額は「払い込む総額÷発行する株式の数」で計算します。
たとえば資本金100万円で1,000株を発行する場合、1株あたりの株価は1,000円です。
同じ100万円でも100株にすれば、1株は1万円になります。
| 払い込む総額 | 発行する株式の数 | 1株の金額 |
|---|---|---|
| 100万円 | 1,000株 | 1,000円 |
| 100万円 | 100株 | 1万円 |
| 300万円 | 300株 | 1万円 |
| 500万円 | 5,000株 | 1,000円 |
資本金の額は、定款認証の手数料と設立登記の登録免許税の金額にも関わります。
| 費用(株式会社) | 金額 |
|---|---|
| 定款認証の手数料 | 資本金100万円未満:3万円(一定の条件を満たす場合は1万5,000円) 100万円以上300万円未満:4万円 上記以外:5万円 |
| 設立登記の登録免許税 | 資本金の額×0.7%(15万円に満たないときは15万円) |
1万5,000円になるのは、資本金100万円未満で次の3つをすべて満たす場合です。
- 発起人が全員個人で、3人以下である
- 発起人が設立時に発行する株式をすべて引き受ける旨を定款に記載している
- 定款に取締役会を置く旨の記載がない
(出典:日本公証人連合会「会社の定款手数料の改定」、国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」)
2-2. 会社の成長性
設立時の1株の金額を高くしても、会社の価値そのものが上がるわけではありません。
払い込む総額が同じであれば、変わるのは株式の数だけです。
会社の成長性が株価に反映されるのは、設立後に外部から出資を受ける場面です。
その時点の事業計画や業績をもとに、新たに発行する株式の払込金額を決めます。
2-3. 市場環境と競合他社
他社の1株あたりの金額は、自社の株価を決める目安にはなりません。
1株の金額は、その会社が発行している株式の数によって大きく変わるからです。
会社どうしの価値を比べるときは、1株の金額ではなく会社全体の価値で比べます。
設立時は実績がないため、他社の動向よりも自社の資金計画をもとに決めるのが現実的です。
2-4. 出資者の意向
株主は、原則として1株につき1個の議決権を持ちます。
複数人で出資する場合、各自の議決権の割合は持株数の割合と同じです。
発起人どうしで1株の金額をそろえれば、出資額の割合と議決権の割合は一致します。
出資者どうしで、誰が何株を持つかを事前に話し合っておくことが大切です。
(出典:e-Gov法令検索「会社法」第308条)
3. 株価決定の基本的な方法
設立時の1株の金額の決め方には、主に3つの考え方があります。
ただし、事業計画や他社との比較による方法は、主に設立後の資金調達で使う考え方です。
3-1. 資本金ベースでの株価設定
設立時は、資本金をもとに1株の金額を決める方法がよく使われます。
先に1株の金額を決めて、資本金に合わせて株式の数を調整する方法があります。
反対に、先に株式の数を決めて、資本金から1株の金額を逆算しても問題ありません。
たとえば資本金500万円で5,000株を発行すると、1株は1,000円です。
1株1万円や1,000円など、計算しやすい金額にしておくと管理がしやすくなります。
3-2. 事業計画に基づく株価設定
事業計画にもとづく方法は、将来の利益や資金の流れから会社の価値を見積もるものです。
設立後に投資家から出資を受ける際、払込金額の根拠として使われます。
設立時は発起人自身が出資するため、この方法で金額を決める場面は限られます。
3-3. 比較企業法
比較企業法は、事業内容が似ている会社の株価や利益と比べて、自社の価値を見積もる方法です。
比べるときは1株の金額ではなく、利益や純資産に対する倍率を使います。
税務上の評価にも、似た考え方の「類似業種比準方式」があります。
類似業種の株価をもとに、配当・利益・純資産の3つの要素で比べる方式です。
3-4. 発行可能株式総数もあわせて決める
1株の金額を決めるときは、発行可能株式総数もあわせて決めます。
発行可能株式総数とは、会社が発行できる株式の数の上限です。
定款認証の時点で定めていなくても、会社の成立時までに定款で定める必要があります。
公開会社は、設立時の発行株式数を発行可能株式総数の4分の1以上にしなければなりません。
公開会社とは、発行する株式の全部または一部に譲渡制限を設けていない会社です。
すべての株式に譲渡制限がある非公開会社には、この制限はありません。
設立後に発行可能株式総数を変えるには、株主総会の特別決議で定款を変更します。
変更の登記には、登録免許税が1件につき3万円かかります。
| 会社の種類 | 発行可能株式総数の制限 |
|---|---|
| 公開会社 | 設立時:発行株式数の4倍まで 設立後に増やすとき:発行済株式総数の4倍まで |
| 非公開会社 | 倍率の制限なし |
(出典:e-Gov法令検索「会社法」第2条・第37条・第113条・第309条・第466条、国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」)
4. 株価設定の実務上の注意点
1株の金額や株式の数は、設立後の手続きや税金にも影響します。
決める前に押さえておきたいのは、次の3つの点です。
4-1. 1株の金額が低すぎる場合・高すぎる場合
設立時の1株の金額は、低すぎても高すぎても実務上の不便が生じます。
| 設定 | 起こりやすいこと |
|---|---|
| 1株を低くする(例:1株1円) | 株式の数が多くなり、株主名簿や議決権の管理が煩雑になる |
| 1株を高くする(例:1株100万円) | 株式を少しずつ譲渡・贈与しにくく、株式分割が必要になることがある |
1株の金額に正解はなく、将来の出資や事業承継の予定から逆算して決めるのが現実的です。
4-2. 株式の分散と支配権の維持
株式を誰がどれだけ持つかは、会社の支配権に直結する問題です。
株主総会の普通決議は、出席した株主の議決権の過半数で成立します。
定款の変更や募集株式の発行などの特別決議には、3分の2以上の賛成が必要です。
| 議決権の割合 | 単独で可決できる決議の例 |
|---|---|
| 過半数 | 普通決議(取締役の選任など) |
| 3分の2以上 | 特別決議(定款の変更、募集株式の発行など) |
いずれも、議決権の過半数を持つ株主が出席していることが前提です。
設立後に外部から出資を受けると、創業者の持株比率は下がります。
出資を受ける前に、過半数や3分の2を保てるかを確認しておくと安心です。
(出典:e-Gov法令検索「会社法」第308条・第309条)
4-3. 税務上の影響
設立時の1株の金額は、税務上の株式の評価額とは別のものです。
非上場株式を贈与・相続した場合は、国税庁の定める方法で評価します。
経営を支配する同族株主等が取得した株式の評価方式は、会社の規模ごとに次の表のとおりです。
| 区分 | 原則の評価方式 |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式 |
| 中会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用 |
| 小会社 | 純資産価額方式 |
| 同族株主等以外の株主 | 配当還元方式(年間の配当金額を10%で還元) |
開業後3年未満の会社は「特定の評価会社」に当たり、原則として純資産価額方式で評価します。
個人間で時価より著しく低い価額で株式を譲ると、差額は贈与とみなされる点にも注意が必要です。
株式を家族に移す予定があれば、事前に税理士へ相談することをおすすめします。
(出典:国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」、国税庁「No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」)
5. 株価設定後の対応
設立後に株式を発行したり、1株の金額を調整したりするには、会社法の手続きが必要です。
5-1. 増資時の払込金額の決め方
設立後に新たに株式を発行する場合は、そのつど株式の数や払込金額などを決めます。
これらは「募集事項」と呼ばれる項目です。
非公開会社では、募集事項は原則として株主総会の特別決議で決めます。
特別決議で株式の数の上限と払込金額の下限を定めれば、決定を取締役に委任できます。
取締役会設置会社では、委任する先は取締役会です。
この委任は、払込期日が決議の日から1年以内の募集にだけ効力があります。
既存の株主に持株数に応じて割り当てる場合は、定款の定めで取締役の決定にもできます。
払込金額が引き受ける人に特に有利な金額のときは、株主総会で理由を説明しなければなりません。
| 決め方 | 決定する機関 | 根拠 |
|---|---|---|
| 原則 | 株主総会の特別決議 | 会社法199条2項・309条2項5号 |
| 委任する場合 | 特別決議で上限・下限を定め、取締役(取締役会)が決定 | 会社法200条 |
| 株主割当で定款に定めがある場合 | 取締役の決定(取締役会設置会社は取締役会の決議) | 会社法202条3項 |
増資で資本金が増えると、増加額の0.7%(3万円に満たないときは3万円)の登録免許税がかかります。
(出典:e-Gov法令検索「会社法」第199条〜第202条・第309条、国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」)
5-2. 株式分割・株式併合で1株の金額を調整する
1株の金額が実情に合わなくなったら、株式分割や株式併合で調整できます。
| 手続き | 内容 | 決定する機関 |
|---|---|---|
| 株式分割 | 1株を複数の株式に分け、1株あたりの金額を下げる | 株主総会の普通決議(取締役会設置会社は取締役会) |
| 株式併合 | 複数の株式を1株にまとめ、1株あたりの金額を上げる | 株主総会の特別決議 |
株式併合をするときは、取締役が株主総会で併合が必要な理由を説明します。
株主の権利に影響するため、実施前に司法書士や税理士へ相談しておくと安心です。
(出典:e-Gov法令検索「会社法」第180条・第183条・第309条)
まとめ
会社設立時の株価の決め方は、払い込む総額と株式の数から発起人が自由に決められます。
押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 1株の金額に法律上の下限・上限はない
- 1株の金額は「払い込む総額÷発行する株式の数」で決まる
- 発行可能株式総数は会社の成立時までに定款で定める
- 設立後の株式発行は、非公開会社では原則として株主総会の特別決議で決める
- 贈与・相続のときの評価額は、国税庁の評価方法で別に計算する
設立後の増資や株式の承継まで見据えて、1株の金額と株式の数を決めることをおすすめします。
ぜひ、経営サポートプラスアルファにご相談ください。
