定年後に新たな挑戦として会社を設立する方が増えています。豊富な経験と人脈を活かして事業をスタートさせることは、セカンドキャリアとして魅力的な選択肢です。しかし、会社設立には法的な手続きや資金計画、事業計画の立案など、さまざまな準備が必要です。
この記事では、定年後の会社設立の具体的な手順、メリット・デメリット、成功のポイントについて詳しく解説します。
1. 個人事業主に課される主な税金
1-1. 所得税
個人事業主が得た所得に応じて課される税金です。所得税は累進課税制度を採用しており、所得が多いほど税率が高くなります。
総収入金額から必要経費を差し引いて所得を計算し、所得控除を差し引いた課税所得に応じて税額が決定されます。税率は5%から45%までの段階的な累進課税が適用されます。
1-2. 住民税
住民税は地方自治体に納付する税金で、前年の所得を基に計算されます。一般的に一律10%程度の税率が適用される場合が多く、毎年6月から翌年3月にかけて分割で納付します。
1-3. 消費税
課税売上高が1,000万円を超える場合、個人事業主も消費税の納税義務が発生します。消費税は商品の販売やサービスの提供に課され、消費者が負担しますが、事業主が納税義務を負います。
課税事業者になる基準は前々年度の課税売上高が1,000万円以上の場合です。インボイス制度導入により、取引の透明性が求められるため、適切な管理が必要です。
1-4. 事業税
個人事業主が得た事業所得に課される税金です。事業所得が290万円以下の場合は非課税ですが、業種に応じて3%から5%程度の税率が適用されます。
2. 税金を計算するための準備
2-1. 帳簿の作成
個人事業主は、収入と支出を正確に記録した帳簿を作成する義務があります。正確な帳簿は税金の計算や節税対策に不可欠です。
売上台帳、経費帳、現金出納帳を整備し、会計ソフトを活用することで効率的に記録を管理できます。
2-2. 確定申告の準備
確定申告は毎年3月15日までに行う必要があります。事業所得や控除内容を申告書に記載し、税務署に提出します。
申告時には所得税の確定申告書B、青色申告決算書または収支内訳書、各種控除証明書を準備しましょう。
2-3. 青色申告のメリット
青色申告を行うことで、最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。また、赤字を翌年以降3年間繰り越せる点や家族従業員への給与を経費に計上できる点が大きなメリットです。
3. 節税のための具体的な対策
3-1. 必要経費の活用
事業運営に直接関連する支出は必要経費として所得から差し引くことができます。例えば、事業用家賃、通信費、光熱費、事業用車両の維持費などが該当します。
ただし、私的利用と事業利用が混在する費用は、事業利用分のみを経費計上する必要があります。
3-2. 控除を最大限活用
個人事業主が利用できる控除には基礎控除(最大48万円)、配偶者控除、医療費控除などがあります。これらを最大限活用することで所得税を軽減できます。
3-3. 小規模企業共済の活用
小規模企業共済は、個人事業主が老後の生活に備えるための積立制度です。掛金全額が所得控除の対象となるため、大きな節税効果が期待できます。
3-4. 事業形態の見直し
売上や事業規模が拡大した場合、法人化を検討することで税負担を軽減できる場合があります。法人化により法人税率が適用され、事業税の非課税枠を利用できます。
4. 税金の支払いスケジュール
4-1. 所得税の支払い
所得税は確定申告後に一括納付するか、分割で納付します。分割納付の場合、1回目は申告時、2回目は5月末までに納付します。
4-2. 住民税の支払い
住民税は6月以降に通知され、年4回に分けて納付します。自治体によって詳細なスケジュールが異なります。
4-3. 消費税の支払い
消費税の納付期限は確定申告期限と同じです。課税売上高が大きい事業者は分割納付制度を利用できます。
5. 税務リスクと対策
5-1. 税務調査への備え
税務署は、確定申告内容に不明瞭な点がある場合に税務調査を行うことがあります。正確な帳簿の記録や必要書類の保存がリスク回避の基本です。
5-2. 税理士の活用
税理士を活用することで、確定申告や帳簿作成の負担を軽減し、税務リスクを回避できます。
6. 個人事業主が納める税金それぞれの税率
個人事業主が納める上記4種類の税金は税額、税率が一定のものとそうでないものがあります。
それぞれの税金の計算方法や税率について解説します。
個人事業主が納める所得税の計算
個人事業主の所得税は下記の公式によって計算します。
<所得税の計算式>
所得=売上-経費
所得税額=(所得-所得控除額)×税率(※)-控除額
所得控除:医療費控除、配偶者控除、障害者控除、寄付金控除(ふるさと納税等)など
税金の税率は「課税所得」=【所得-所得控除額】に応じて定まります。
<個人事業主の課税所得と所得税の税率>
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
例えば課税所得(売上-経費-所得控除)=200万円の個人事業主の場合、納める所得税の税金は
2,000,000×10%-97,500=102,500円 となります。
控除により税金はかなり抑えられます。
個人事業主が納める消費税の計算
ご存知のように消費税は2019年10月に8%から10%に上がりました。
食料品やテイクアウトなど一部は8%のまま「軽率減税」として据え置かれましたが、これにより経理処理が複雑になったことも挙げられます。
個人事業主の中にも、軽率減税対象の商品の仕入れや販売を行う人もおり、その場合、税金の算出等が複雑になります。
消費税は個人事業主の場合、お客様から預かっている消費税と、仕入れなど経費にかかった消費税を相殺します。
個人事業主の取引について、軽率減税がないすべて10%の取引だと仮定します。
<消費税の計算式>
- 仕入れにかかる消費税:10万円×10%=1万円
- 売上にかかる消費税:30万円×10%=3万円
- 納税する消費税の税金:3万円-1万円=2万円
個人事業主が納める税金は2万円となります。
売上30万円だから×10%の3万円を消費税として納税するわけではないことに注意してください。
個人事業主が納める住民税の計算
個人事業主の住民税は確定申告をすれば、自治体にも申告書が回り、自動的に計算し通知してくれます。
個人事業主の住民税は下記公式によって計算します。
<住民税の計算式>
所得=売上-経費
所得税額=所得割〔(所得-所得控除額)×税率(※)-控除額〕+均等割
所得控除(★):医療費控除、配偶者控除、障害者控除など
計算式は所得税と似ていますが、★所得控除の金額は所得税と住民税では若干異なります。
例えば、「障害者控除」は所得税の場合27万円ですが、住民税の場合26万円となります。税金によって控除額が違うので注意してください。
税率は
均等割:原則5000円
所得割:原則10%
です。
「原則」となっているのは、住民税は地方税のため自治体によっては税率や均等割額が異なる場合があるからです。例えば、名古屋市の住民税は所得割9.7%となっています。
逆に税金の金額や税率が原則よりも高い自治体もあり、横浜市の場合、均等割6200円、所得割10.025%となっています。
自治体によって税金が多かったり少なかったりすることがあるのが住民税です。
個人事業主が納める個人事業税の計算
個人事業主の所得が290万円以上の場合、個人事業税という税金が課されますが、税率は、業種によって異なります。業種により税率は3%~5%と異なります。
自治体のHPで個人事業税の税率を確認しておきましょう。
ちなみに、東京都主税局によると、東京都内の個人事業税は以下のように定められています。
区分 |
税金税率 |
個人事業主の事業の種類 |
||||
第1種事業 (37業種) |
5% |
物品販売業 |
運送取扱業 |
料理店業 |
遊覧所業 |
|
保険業 |
船舶定係場業 |
飲食店業 |
商品取引業 |
|||
金銭貸付業 |
倉庫業 |
周旋業 |
不動産売買業 |
|||
物品貸付業 |
駐車場業 |
代理業 |
広告業 |
|||
不動産貸付業 |
請負業 |
仲立業 |
興信所業 |
|||
製造業 |
印刷業 |
問屋業 |
案内業 |
|||
電気供給業 |
出版業 |
両替業 |
冠婚葬祭業 |
|||
土石採取業 |
写真業 |
公衆浴場業(むし風呂等) |
- |
|||
電気通信事業 |
席貸業 |
演劇興行業 |
- |
|||
運送業 |
旅館業 |
遊技場業 |
- |
|||
第2種事業 (3業種) |
4% |
畜産業 |
水産業 |
薪炭製造業 |
- |
|
第3種事業 (30業種) |
5% |
医業 |
公証人業 |
設計監督者業 |
公衆浴場業(銭湯) |
|
歯科医業 |
弁理士業 |
不動産鑑定業 |
歯科衛生士業 |
|||
薬剤師業 |
税理士業 |
デザイン業 |
歯科技工士業 |
|||
獣医業 |
公認会計士業 |
諸芸師匠業 |
測量士業 |
|||
弁護士業 |
計理士業 |
理容業 |
土地家屋調査士業 |
|||
司法書士業 |
社会保険労務士業 |
美容業 |
海事代理士業 |
|||
行政書士業 |
コンサルタント業 |
クリーニング業 |
印刷製版業 |
|||
3% |
あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復 |
装蹄師業 |
||||
その他の医業に類する事業 |
この税金、すべての事業者が対象とならないのもポイントです。
上の表にない個人事業主である、スポーツ選手、ミュージシャン、音楽家、マンガ家、作家、文筆業(ライター)、翻訳業などの業種は個人事業税の納税義務がないのです。
表にない非対象業種の方は、個人事業主として何千万円稼いでも、個人事業税という税金は支払う義務がありません。
7. まとめ
個人事業主として事業を運営する際、税金に関する知識と対策は欠かせません。所得税、住民税、消費税、事業税などの種類ごとに、それぞれの特徴や計算方法を正確に把握することが重要です。
また、帳簿を正確に作成し、必要な控除や節税策を活用することで、税負担を軽減しながら事業運営を効率化できます。税務リスクに備え、専門家のサポートを受けることも効果的です。
税務知識を武器に、安定した事業運営とさらなる成長を目指しましょう。
