会社を設立する際には出資金を用意しなければなりません。
この出資金をもとに会社を経営するため、開業や規模拡大にあたって非常に重要なお金です。
多くの場合、出資金には現金が利用されますが、現金以外で物を出資する「現物出資」と呼ばれるものがあります。
今回は現物出資にフォーカスしてご説明します。
現物出資とは何か
今回は現物出資についてご説明しますが、現物出資についてご存知ではない人も多いでしょう。
まずは現物出資とはどのようなルールであるのかご説明します。
現物出資の制度概要
冒頭でも説明したとおり、現物出資とはお金以外のものを出資する制度を指します。
一般的にはお金を出資するケースが多いですが、それ以外のものも認められているということです。
基本的に株式会社を設立する際は、会社法第25条により発起人が設立時の株式を1株以上引き受けなければなりません。
つまり、発起人が株式に対応する額を出資しなければならないのです。
この時、現金ではなくても現物出資ができます。
また、株式会社の規模を大きくするにあたって、追加で出資する際も現物出資が利用できます。
現金の代わりに適切な金額の物品を提供すればそれで出資になるのです。
現物出資に利用できるもの
現物出資に利用できるものは多くあり、例を挙げると以下のとおりです。
- 机や椅子などオフィス家具
- パソコンやプリンターなど家電製品
- 自動車など
- 有価証券・債権
- 自社のWebサイト
会社として利用する製品や会社として保有する資産などが現物出資の対象となります。
貸借対象表に資産として計上できるものであれば、現物出資に使用できると考えて差し支えありません。
逆に、労働など「資産」とはいえないものは、現物出資の対象とはなりません。
例えば「出資金として2ヶ月の労働を提供する」などは不可能なのです。
現物出資を利用する3つのメリット
出資者が現金ではなく現物を出資することにはいくつものメリットがあります。
続いてはこれらのメリットについてそれぞれご説明します。
メリット1:発起人になりやすい
現物出資を利用すれば現金がなくても発起人になれます。
一般的に発起人になるためには現金を出資しなければなりません。
そのお金が会社の資本金となり、会社の経営に利用されるのです。
基本的には現金がなければ発起人になりにくいのですが、現物出資が認められればそのハードルが大きく下がります。
例えば、パソコンなど高価な電化製品を現物出資すれば、それでまとまったお金を出資したことになるのです。
適切な価格調査も必要となりますが、現金がなくとも発起人になり議決権を持てる可能性があります。
なお、現物出資では複数の資産を提供することも可能であるため、出資額を増やすことも可能です。
例えば現金で100万円出資する人がいれば、現物で100万円出資することで同等の議決権を得られます。
メリット2:資本金の底上げができる
現物出資は現金ではなく資産で出資するため、出資のハードルが下がるのはご説明したとおりです。
そして、出資のハードルが低くなることによって、資本金の底上げをしやすくなります。
例として、現金で資本金300万円を用意するのが難しい場合を考えてみましょう。
この場合に現物出資を利用すれば、現金250万円とパソコンなどの資産50万円に分けられます。
株式などを保有していれば現金は200万円やそれ以下で良いかもしれません。
このように現物出資を利用すれば、少ない現金で資本金の底上げができます。
資本金の額は金融機関などからの印象を左右するため、必要に応じて現物出資で底上げしておくと良いでしょう。
ただ、現物出資は現金ではないため、物品の購入やサービスへの支払いにすぐ利用できない点には注意すべきです。
メリット3:減価償却の対象となる
現物出資したものは会社の資産となるため、減価償却の対象となります。
出資にもかかわらず減価償却できるイメージが湧かないかもしれませんが、「資本金で資産を購入した」と考えれば分かりやすいでしょう。
例えば200万円の新車を購入してそのまま現物出資した場合、会社は200万円の資本金が増え200万円の減価償却が可能です。
普通自動車であれば法定耐用年数は6年間と定められているため、この期間で減価償却できます。
減価償却できれば会社の利益と相殺できるため、各種税金が下がるメリットを生み出すのです。
なお、自動車のような固定資産だけではなく、他の資産も内容によっては減価償却の対象です。
減価償却できれば中長期的な経費が見込まれるため、節税に役立てられるようになります。
現物出資の2つのデメリット
上記の通り現物出資にはメリットがありますが、デメリットも認識しなければなりません。
具体的にデメリットについてもご説明します。
デメリット1:現金は増加しない
現物出資の最大のデメリットは現金が増加していないという点です。
現物出資すればそれだけ会社の資本金は増加しますが、これはあくまでも会計上の話です。
現金化しない限り現物出資したものはモノでしかありません。
例えば現金100万円で現物出資の株式が900万円の場合、資本金は1,000万円あります。
しかし、取引先に支払ったり仕入れをしたりするのに利用できるお金は100万円しかありません。
資本金と手元にあるお金に大きな差が生まれてしまうのです。
そのため、現物出資を利用する場合は、手元にある現金を常に意識しなければなりません。
必要に応じで資産を売却したり融資などで資金調達したりする必要があります。
資産の価値が下がってしまうと実質的に資本金の額が減少するため、素早い行動が重要です。
デメリット2:手続きが複雑
現物出資は現金出資と比較すると手続きが複雑になってしまいます。
簡単に出資金を用意できるだけではないため、その点は意識しなければなりません。
手続きが複雑になってしまう原因は、現物出資専用の書類などを作成する必要があるからです。
具体的には定款の内容を現物出資対応のものにして、資産の価格評価に関する書類を作成してもらわなければなりません。
現物出資は自己申告で資産の価格を決定できるのではなく、第三者による評価を受けて決定されるからです。
加えて、個人で所有している資産を会社の資産にするための手続きが必要です。
例えばパソコンを会社の少額固定資産にしたり、車なら所有者の名義変更したりしなければなりません。
事務手続きには手間がかかるものが多く、結果として現物出資の手続きを複雑化させています。
現物出資を利用する際の2つのポイント
現物出資を利用する際には抑えておきたいポイントがあります。
続いては現物出資ではどのようなポイントを抑えておくべきなのかをご説明します。
ポイント1:不足額がある場合に負担が必要となる
現物出資する際は価格を評価しますが、場合によっては不足してしまう可能性があります。
このような不足が発生してしまった場合は、発起人が責任をもって不足額を補填しなければなりません。
例えば、出資金として100万円相当の電子機器を現物出資することを定款に記したとします。
ただ、実は100万円は過大な評価で、実際には80万円相当の価値しかありませんでした。
この場合資本金としては20万円が不足している状態になってしまいます。
このように過大評価によって資本金が定款に記載されている内容と相違してしまう場合には、発起人が不足している金額を埋め合わせるのです。
今回であれば差額の20万円は発起人が埋め合わせしなければなりません。
現物出資は第三者に評価してもらうため基本的には相違が発生しませんが、意図的に過大評価してもらうようなことがあると不足額が生じ、負担が発生する可能性があります。
ポイント2:税金を課される可能性がある
現物出資したものは会社の資産となるため、内容によっては税金を課されてしまう可能性があります。
資産を保有することになるためやむを得ないことではありますが、税金について考慮しておくことがポイントです。
特に土地や自動車などの固定資産は税金が課されやすいため、税金を意識しておきましょう。
状況にもよりますが現物出資によって課される可能性がある税金は以下の二つです。
- 譲渡所得税
- 消費税
まず、譲渡所得税は資産の譲渡に関する所得税です。
資産価値のあるものを他人に譲渡すると、譲渡された側は評価額に応じた税金を納めなければなりません。
現物出資する場合だけではなく個人間の譲渡などでも発生する税金です。
譲渡所得税は全ての現物出資に対して課されるわけではなく、国税庁のWebサイトを参照してみると以下が該当します。
- 土地
- 借地権
- 建物
- 株式等
- 金地金
- 宝石
- 書画
- 骨とう
- 船舶
- 機械器具
- 漁業権
- 取引慣行のある借家権
- 配偶者居住権
- ゴルフ会員権
- 特許権
- 著作権
- 鉱業権
- 著作権
- 土石(砂)
これらが全てではないものの、譲渡所得税の対象となるものは多くあるため注意しておかなければなりません。
また、譲渡所得税の計算方法は複雑で、現物出資されたものの内容によって異なります。
具体的にどの程度の税金を支払う必要があるのかは、税理士に確認しておくと安心です。
続いて、現物出資されたものの中に消費税の課税対象となるものがあれば、これについて消費税を納めなければなりません。
その理由については割愛しますが、株式の売買のような形になるため消費税が課されるとイメージしておくと良いでしょう。
消費税についても適切な算出が求められるため、税理士などに相談して確認します。
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まとめ
会社を設立する際の現物出資についてご説明しました。
一般的に出資といえば現金を利用しますが、法律上は現物の出資も認められています。
何かしら会社に価値のある資産を保有していれば、現金ではなくともこれを出資することが可能なのです。
現物出資をすれば資本金が増え、現物出資した側は議決権を得られます。
これはメリットではあるものの、現物出資はあくまでも現物であり現金ではありません。
会社として使える現金の額と資本金額には相違が発生してしまうため注意しましょう。
資本金が高額でも手元に現金がほとんどない状況も考えられます。
もし、メリットやデメリットを踏まえて現物出資するならば、まずは会社設立のプロである経営サポートプラスアルファにご相談ください。
現物出資すべきかどうかの最終判断をお手伝いし、現物出資する場合に必要な手続きをサポートします。