事業を営む際には法人を設立しなければならないとイメージする人がいますが、実際には法人を設立しなくても個人事業主としてやっていくことができます。
個人事業主は個人名や「屋号」で仕事をする方法です。
では、法人と個人事業主の違いは何なのでしょうか?
違いを理解できれば、法人設立すべきなのか、個人事業主としてやっていくべきなのか判断できます。
絶対に法人設立をして「株式会社〇〇」と名乗らなければいけないわけではありません。
個人事業主として屋号を設けたり、本名のまま営業したりすることもできます。
今回は個人事業主と法人の違いについて説明します。
違いを理解することで、どちらで営業すればよいのかわかります。
ぜひ、ご自身が個人事業主としてやるのか、法人設立するのか考えてみてください。
個人事業主と法人の違いについて解説
それでは個人事業主と法人の違いについて解説していきます。
いくつかの条件(分野)別に個人事業主と法人の違いを説明します。
個人事業主と法人の組織体制の違い
まず個人事業主と法人の組織のありかたについての違いを解説します。
同じように始業を行う場合も、個人事業主と法人ではまったくその組織体制が異なり、大きな違いがあることをご理解いただけるはずです。
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個人事業主 |
法人 |
事業の主体の違い |
個人(代表者自身) |
法人 |
登記の有無、違い |
不要 |
必要 |
資本金の違い |
不要 |
1円以上 |
出資者の違い |
本人 |
1名以上 |
責任の違い |
無限責任 |
有限責任 |
決算日の違い |
12月31日固定 |
自由に決められる |
確定申告の期日の違い |
翌年3月15日前後 |
・事業年度末による違いあり固定日ではない |
代表者の所得の違い |
事業所得 |
給与所得 |
設立費用の違い |
無料 |
最低60,000円~202,000円 |
印鑑作成の有無、違い |
個人の印鑑でOK |
社印、代表社印が必要 |
設立までの時間の違い |
即時即日 |
数日かかる。ただし最短即日も場合によっては可能 |
社会保険加入有無 |
従業員4名位以下は任意加入 |
強制加入 |
社会的信用度の違い |
あまりない |
高い |
借入難易度の違い |
結構大変 |
個人事業主より比較的有利 |
法人化することで、社会的信用度が高くなり、それゆえに金融機関からの融資が受けやすくなります。
法人登記をする中で第三者に対して法人情報を公開するため、嘘をつけず社会的に法人情報についてオープンにするため信用度が増すのです。
一方個人事業主は開業や経営維持のためのコストが低い分、社会的信用が得られにくくなっています。
特にクライアントを開拓しなければならないような仕事の場合、法人のように登記簿を取得できないので、相手へ個人事業主として信用してもらうためにはかなり大変です。
個人事業主だとどこの誰かわからないと思う人がいて、その分不利になります。
責任の範囲も大きな違いになります。
法人の場合「有限責任」なので会社の負債は法人として、あるいは経営者として負うことになり、個人の財産まで持っていかれることは少ないのですが、個人事業主の場合、事業の負債はすべて個人である自分が被ることになります。
事業で借りた融資を返せない場合、取引先に支払いができない場合など、事業で負った負債については、個人事業主の場合「無限責任」と言って、すべて個人として被らなければいけません。
自分の家や財産を売ってでも返済に充てなければならず、それでも無理な場合は自己破産になります。
当然自己破産した人が再び事業を始めるのは大きな困難が伴いますし、それ以外もデメリットしかありません。
個人事業主と法人の事業開始(開業)までの道のりの違い
個人事業主と法人では、実際に事業開始までの過程が大きく異なります。
個人事業主は開業しやすいのですが、法人は大きなハードルがいくつもあります。
それらを表にしましたので確認しましょう。
違いは一目見てわかります。
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個人事業主 |
法人 |
違いステップ1 |
開業届を税務署に提出する |
商号(社名)や事業目的、資本金、社員(役員)等を決める |
違いステップ2 |
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定款を作成する |
違いステップ3 |
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定款を公証役場で認証する(合同会社は不要) |
違いステップ4 |
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社印を作成する |
違いステップ5 |
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資本金を振り込む |
違いステップ6 |
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法務局へ行き会社設立登記をする |
違いステップ7 |
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設立登記後社会保険や年金の手続きをする |
個人事業主の場合、事務所に開業届を提出すればその時点で開業手続きは完了します。
さらに言うと、開業届を出す前から事業をしていただいても構いません(ただし青色申告はできません)。
一方、法人の場合、7つに及ぶステップを踏まないと事業が開始できません。
法人設立登記が完了し、第3者が登記簿謄本をとれるようになるのは、登記申請の約2週間後になります。
金融機関からの借入申請や補助金申請ができるようになるのも、そこからになり、実際にフルスペックで事業できるようになるのは、登記後さらに時間がかかるので注意してください。
個人事業主であれば開業直後から可能になります。
個人事業主と法人の開業費用の違い
開業のかかる費用も、個人事業主と法人では大きな違いがあります。
法人の方が圧倒的に費用が掛かり、初期費用の違いは歴然としています。
法人の場合、合同会社と株式会社でも初期費用に違いがあるので注意してください。
個人事業主と法人の違い、一目瞭然です。
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個人事業主 |
法人(株式会社) |
法人(合同会社) |
定款印紙代の違い |
なし |
紙の定款:4万円 |
紙の定款:4万円 |
定款認証代の違い
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なし |
5万円 |
0円(認証手続きそのものが認証不要) |
謄本代の違い |
なし |
2,000円 |
なし |
登録免許税の違い |
なし |
最低15万円 |
最低6万円 |
資本金の違い |
なし |
最低1円 |
最低1円 |
社印作成費用の違い |
なし |
約2万円 |
約2万円 |
合計 |
0円! |
最低20万2千円+資本金+社印代 |
最低6万円+資本金+社印代 |
法人は無料で開業できる個人事業主と違い、開業にあたり費用が発生します。
法人登記の際の「登録免許税」、定款認証費用、、定款印紙代、社印の作成費用など合わせて10万円~20万円超の出費を覚悟しておく必要があります。
もちろん、法人には「資本金」も必要になります。
かつては株式会社1000万円、有限会社300万円の資本金が必要でしたが、現在は「1円会社」の設立が可能で、資本金がない個人事業主とこの部分での違いはあまりなくなりました。
しかし、法人なのに資本金が1円など極端に少ない場合、「この法人はなにか事情があるのでは?」「訳あり?」と思われてしまい、個人事業主よりも信用度が下がることもあるかもしれません。
合同会社と個人事業主の税金の違い
最後は個人事業主と法人の税金についての違いです。
国民の3大義務の1つ「納税の義務」を果たさなければなりません。
事業を営めば当然利益が生まれ納税しなければなりませんが、個人事業主と法人では支払う税金も大きな違いがあります。
この違いを意識して、どちらにするのか選ぶのかお考え下さい。
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個人事業主 |
法人 |
所得税 |
事業の売上から「事業所得」を算出してその5%~45% |
代表個人の役員報酬を「給与所得」として算出し、その5%~45% |
個人住民税 |
事業の売上から「事業所得」を算出してその約10% |
代表個人の役員報酬を「給与所得」として算出し、その約10% |
消費税 |
課税売上1000万円以上の場合支払う |
課税売上1000万円以上の場合支払う |
法人税 |
なし |
かかる(税率15%~32.2%) |
法人住民税 |
なし |
かかる |
法人事業税 |
なし |
かかる |
個人事業税 |
かかる |
なし |
支払う税金が個人事業主と法人では違いがあります。
法人は「会社(法人)としての税金」+「代表者個人の給与所得にかかる税金」を支払います。
一方、個人事業主の場合は、すべて個人の所得として所得税や事業税などの税務申告をすることになります。
売上が1000万円を超えたあたりで、「個人事業主が払う所得税」よりも「法人が払う法人税」の方が安くなり、法人化する明確なメリットが生まれます。
1000万円を超える売上を見越している場合、最初から個人事業主ではなく法人設立を考えた方がいいでしょう。
税制面でも個人事業主と法人の大きな違いを理解してください。
個人事業主と法人の違いから考えるメリット、デメリット
以上、個人事業主と法人の違いについて、複数の視点からご理解いただけたはずです。
両者は明確に違いがあり、それぞれ理解していただけたことと存じます。
上記の個人事業主と法人の違いから、それぞれのメリットとデメリットをまとめて、表にしました。
個人事業主 |
法人 |
メリット |
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簡単に設立できる、開業の手間がかからない |
社会的信用がある |
定款などの作成義務がない |
経費の範囲が広い(福利厚生費なども認められる) |
比較的自由な働き方ができる |
責任の範囲が有限 |
廃業手続きもすぐにできる |
赤字繰り越しが10年である |
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売上が多くなれば個人事業主よりも税率が下がる(所得税最高税率45%、法人税最高税率23.2%) |
デメリット |
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社会保険に加入できないため、国民健康保険と国民年金では老後が不安 |
設立までいくつもの工程があり手間やコストがかかる |
社会的信用がない |
法人の廃業時の手続きも複雑で手間がかかる |
最大税率45%と法人税よりはるかに高い |
設立後の帳票作成や税務申告が大変 |
無限責任で経営失敗のマイナスはすべて自分が負う。家や財産を失うリスク |
赤字でも法人住民税(均等割)がかかる |
赤字繰り越しが3年までしかできない |
社会保険へ加入しなければならない。会社が社会保障費の半額以上を支出 |
経費で落とせる範囲が狭い |
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個人事業主と法人はメリット、デメリットが裏表、トレードオフの関係になります。
売上や所得が一定の金額を超えると、税率の関係で圧倒的に個人事業主の方が高く税金を支払うことになります。
この違いは非常に重要で、芸能人などが自分の会社を設立するのはここに理由があります。
開業届、廃業届1枚で簡単に開廃業できる個人事業主ですが、その分法的な保護は弱く、保険や年金も一部の職域の健保組合などを除き自分で加入し保険料を支払います。
法人は手間がかかる一方で、法的に保護され、責任も一定範囲にしか及びません。
赤字の繰り越しなども個人事業主より優遇されているため、本気で事業に取り組みたい場合、売上にかかわらず最初から法人にするのもよいでしょう。
個人事業主で始めてその後法人に切り替えても問題なく、違いやメリット、デメリットを理解して、個人事業主と法人、どちらにするか決めてください。
個人事業主と法人の違いについて専門家に聞きながら開業したい場合「経営サポートプラスアルファ」がおすすめ
個人事業主と法人の違いについて解説しました。
それぞれに明確な違いがあり、メリットとデメリットも違います。
それらを完全に理解し、個人事業主と法人どちらで開業するのかを決めるのはなかなか大変です。
「経営サポートプラスアルファ」には個人事業主と法人の違いに詳しい専門家がおり、みなさまの事業や経営計画に応じてどちらを選択すべきなのか適切にアドバイスさせていただきます。
どちらかの選択に無理に誘導するようなことはないのでご安心ください。
個人事業主として働く選択肢もありです。
土日祝日夜間も対応しますし、遠隔地の方はLINEやZoomが使えますのでご安心ください。
個人事業主と法人どちらにするかは、大きな事業展開の選択になるため、違いをしっかり理解し後悔のない選択にしてください。
「経営サポートプラスアルファ」はその選択についてアドバイスします。