法人化の主なメリットは、法人税率の適用による節税、社会的信用の向上、資金調達力の強化、有限責任による所有者のリスク限定、そして生命保険料や退職金の損金算入です。事業を営む方法には、大きく分けて「個人事業主として開業する」方法と「会社設立・法人化して開業する」方法があり、税金や社会的信用の面で差が生じます。法人化がすべての事業者にとって有利とは限らず、社会保険料の負担増などデメリットも存在するため、両者を比較したうえで判断することが実務上重要です。
法人化(会社設立)と個人事業主の違い
法人化を行うかどうかを決める際には、まずその違いを理解しておく必要があります。以下に、法人化と個人事業主の制度的な違いを示します。
| 項目 | 法人化(会社設立) | 個人事業主 |
|---|---|---|
| 事業の主体 | 法人 | 個人 |
| 資本金 | 1円以上 | 不要 |
| 責任 | 有限責任 | 無限責任 |
| 決算日 | 自由に設定可能 | 12月31日固定 |
| 確定申告 | 事業年度末から2か月以内 | 翌年3月15日前後 |
| 代表者の所得 | 給与所得 | 事業所得 |
| 設立費用 | 合同会社:登録免許税のみ最低6万円〜/株式会社:登録免許税(最低15万円)+定款認証手数料(要件を満たせば1万5,000円〜、原則3万〜5万円) | 無料 |
| 社会保険 | 強制加入 | 任意加入(従業員4人未満) |
| 社会的信用 | 高い | あまりない |
| 金融機関からの借入 | 比較的容易 | 難しいことが多い |
設立費用は会社形態によって異なります。合同会社は登録免許税のみで最低6万円から、株式会社は登録免許税(資本金の0.7%、最低15万円)に定款認証手数料が加わります。定款認証手数料は2024年12月1日以降、発起人全員が自然人で3人以下かつ取締役会非設置などの要件を満たす場合は1万5,000円に軽減され、満たさない場合は資本金額に応じ3万円・4万円・5万円となります。実費の目安は16万円台から20万円程度に収まるケースが多く見られます(出典:中小企業庁「会社設立時の登録免許税の軽減について」/法務省「株式会社の設立手続(発起設立)について」/日本公証人連合会「定款認証の手数料」)。
法人化のメリット
1. 社会的信用度の向上
法人化することで、事業者としての信用度が大幅に向上します。法人であれば、契約相手や金融機関からの信頼を得やすく、融資を受ける際にも有利に働きます。会社名に「株式会社」や「合同会社」を冠することで、取引先からの安心感も高まります。
2. 税率の低さ
個人事業主の場合、所得税は累進課税で、所得が増えるにつれて税率も高くなります。最高税率は45%です。一方、法人税は一律で、最高でも23.2%程度です。したがって、利益が増えるほど、法人化することで税負担が軽減される可能性が高くなります。
3. 経費計上の範囲が広がる
法人化すると、経費として計上できる範囲が個人事業主よりも広くなります。たとえば、個人事業主では認められない支出も、法人では「福利厚生費」として処理できる場合があります。経費の範囲が広がることで、節税効果が期待できます。
4. 責任の限定
法人化することで、事業に対する責任が有限となり、事業主個人の財産を守ることができます。例えば、会社が負債を抱えても、取締役個人の財産にまで影響が及ぶことはありません。一方で、個人事業主は無限責任を負い、すべての資産を差し押さえられるリスクがあります。
5. 赤字繰り越し期間が長い
個人事業主の場合、赤字は最大3年までしか繰り越せませんが、法人化すれば最大10年まで赤字を繰り越すことが可能です。この制度により、法人化後に利益が出なくても、将来的に利益が出た際には過去の赤字と相殺でき、税負担が軽減されます。
法人化のデメリット
1. 設立と運営のコスト
法人化には設立費用がかかります。株式会社の場合、定款の認証手数料や登録免許税が必要で、設立費用は最低でも20万円前後かかります。合同会社でも6万円程度の費用が発生します。個人事業主は無料で開業できるため、設立コストが法人化の大きなハードルです。
2. 複雑な手続きと管理業務
法人化すると、設立後もさまざまな手続きが必要です。たとえば、法務局での登記や社会保険の加入手続き、毎年の決算書作成と税務申告が義務付けられます。また、帳簿の作成や税理士のサポートが必要になるため、管理業務が個人事業主に比べて複雑になります。
3. 赤字でも法人住民税が発生する
法人化すると、たとえ赤字であっても法人住民税の「均等割」という形で税金が発生します。この均等割は、事業規模に関わらず毎年支払う義務があり、最低でも7万円程度の税負担が発生します。個人事業主の場合、赤字であれば税金は発生しないため、この点が法人化のデメリットとなります。
4. 社会保険の加入義務
法人化すると、社会保険(健康保険・厚生年金)に強制加入する義務があります。個人事業主の場合は国民健康保険と国民年金への加入のみで済むため、社会保険料の負担は法人化することで大きくなります。社会保険料は従業員だけでなく、経営者も負担しなければならないため、事業の初期段階では大きなコストとなる可能性があります。
5. 廃業手続きの煩雑さ
法人化して事業を閉じる際には、廃業手続きが煩雑になります。個人事業主であれば、税務署に廃業届を出すだけで済みますが、法人の場合は法的手続きや公示が必要となり、時間と費用がかかります。廃業が認められるまでの間、法人住民税などの支払い義務も続くため、事業がうまくいかなくなった場合の負担は大きくなります。
法人化すべきかどうかの判断基準
法人化には、明らかなメリットがある一方で、事業の規模や状況によってはデメリットが大きくなる場合もあります。法人化を検討する際は、以下のポイントを考慮してください。
- 収益が安定しているか 法人化することで節税効果が期待できますが、収益が不安定な場合、法人運営のコストがデメリットとなる可能性があります。安定した収益が見込めるなら、法人化を検討する価値があります。
- 社会的信用が必要か 大きな契約を結ぶ機会や融資を受ける必要がある場合、法人化することで得られる社会的信用が有利に働きます。
- 長期的な事業計画 法人化には設立費用や運営コストがかかるため、短期間での利益回収を目指す場合は不向きです。長期的なビジョンを持っている場合、法人化が適した選択肢になります。
法人化を検討する目安・タイミング
法人化の判断は、課税所得の水準や資金繰りの状況によって分かれます。所得税は課税所得に応じて5%から45%までの7段階の累進税率が適用される一方、法人税は年800万円以下の所得に軽減税率15%、超える部分に23.20%が適用されるため、課税所得が一定水準を超えると法人税率の方が税負担の面で有利になりやすい傾向です。ただし、法人化すると代表者は厚生年金保険・健康保険への加入が必須となり、厚生年金保険料率は労使合計18.3%(労使折半)で、個人事業主の国民年金保険料(令和8年度は月額17,920円)より負担が重くなるケースが少なくありません。消費税についても、原則として基準期間(法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超えた時点で課税事業者となるため、新設法人は基準期間がない設立当初の一定期間、免税事業者となれる特例を活用できるかどうかも判断材料になります。単年の利益額だけでなく、社会保険料の増加分や資金繰りへの影響まで含めて判断することが実務上のポイントです。
(出典:No.2260 所得税の税率|国税庁、No.5759 法人税の税率|国税庁、厚生年金保険の保険料|日本年金機構、No.6501 納税義務の免除|国税庁)
よくある質問
法人化はどのくらいの利益・所得から検討するとよいか
一律の基準はありませんが、所得税と法人税の税率構造を踏まえると、課税所得がおおむね800万円前後を超えるあたりから法人税率(超過分23.20%)の方が所得税の累進税率より低くなりやすく、検討の目安の一つになります。厚生年金保険料など社会保険料の増加分も含めて試算した上での判断が求められます。
法人化の費用はいくらかかるか
合同会社は登録免許税のみで最低6万円から、株式会社は登録免許税(資本金の0.7%、最低15万円)に定款認証手数料が加わります。定款認証手数料は2024年12月1日以降、発起人全員が自然人で3人以下かつ取締役会非設置などの要件を満たす場合は1万5,000円に軽減され、満たさない場合は資本金額に応じ3万円・4万円・5万円となります。
法人化すると社会保険料の負担はどう変わるか
代表者は厚生年金保険・健康保険への加入が必須となります。厚生年金保険料率は労使合計18.3%で固定されており、労使で折半して負担する仕組みです。個人事業主が加入する国民年金保険料は令和8年度で月額17,920円であり、単純比較では法人化後の方が保険料負担が増えるケースが多いため、役員報酬の設定と合わせた試算が重要になります。
赤字の年でも法人住民税はかかるか
法人住民税には所得に関わらず課される均等割があり、赤字の事業年度でも納税義務が生じます。個人事業主は所得がなければ住民税の均等割以外の負担は基本的に生じません。一方、欠損金の繰越控除は法人が10年(2018年4月1日以後開始事業年度)、個人事業主(青色申告)が3年と法人の方が長く、翌期以降の黒字と相殺できる期間は法人の方が有利です。
消費税の課税事業者になるタイミングはいつか
消費税の課税事業者判定は原則、基準期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高で行い、1,000万円を超えると課税事業者となります。新設法人は設立当初、基準期間が存在しないため原則として免税事業者となりますが、資本金の額や特定期間の課税売上高・給与支払額などの特例により、設立初年度から課税事業者になる場合もあります。
個人事業主のままでもよいケースはあるか
課税所得が少なく法人税率のメリットが小さい場合や、社会保険料の負担増が利益の増加分を上回る場合は、法人化を急ぐ必要は薄いといえます。社会的信用力や資金調達力の向上を優先する事業者は、利益水準にかかわらず法人化を選ぶ場合もあり、単純な損益比較だけでなく事業の方向性を踏まえた判断が求められます。
法人化(会社設立)のメリット、デメリットを踏まえて、法人化可否はぜひ「経営サポートプラスアルファ」にご相談ください。
法人化には、多くのメリットがある一方で、設立コストや運営上のデメリットも考慮する必要があります。事業の状況や将来的なビジョンに基づいて、法人化のタイミングを見極めることが重要です。
法人化の際には、ぜひ経営サポートプラスアルファにご相談ください。
